PSPはなぜ本体ばかりが売れるのか?
PSP(プレイステーション・ポータブル)は2004年12月12日にSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)から発売された携帯ゲーム機である。携帯ゲーム機としてはかなり大きい4.3インチワイド液晶を採用し、ゲーム以外の拡張性にも優れているのが特徴である。発売当時、据置ゲーム機市場では同社のPS2が圧倒的なシェアを誇り、もはや敵なしの状態であったが、携帯ゲーム機市場は長年任天堂の独壇場。この市場にPSPが加わることで携帯ゲーム機の市場がどのように変化していくのかを大いに注目された。
PSPの日本での初回生産出荷台数は約20万台。SCEによると初代PSの初回出荷台数が10万台だったから、その2倍を用意すれば十分だと考えていたようだが、もちろんすぐに品薄状態を引き起こしてしまう。この状況を見てSCEはすぐに増産体制に入り、2004年の年末までに累計51万台を出荷。それでも品薄状態がしばらく続き、SCEから品薄のお詫びのコメントが出されたほどだった。
2005年春頃になるとPSPの出荷も安定し、2005年3月24日に北米で、5月にはアジア各国で発売開始。日本ではほとんど品薄は解消されたが、奇しくも携帯ゲーム機のライバルであるニンテンドーDSが春ごろから調子が上向き、徐々に本体の出荷数でも差をつけられてしまう。日本のゲーム市場は一般的に1つのハードがリードするとそこに大勢が流れてしまう傾向にあるので、携帯ゲーム機市場はニンテンドーDSに軍配が上がったかに見えた。
しかし2005年を終えて、2005年末までPSPの日本での累計生産出荷台数は公式リリースによれば約420万台(アジア含む)とある。対して年末に爆発的ヒットとなったニンテンドーDSの累計出荷台数は同じく日本で570万台(メーカー発表)。PSPの日本以外のアジア諸国の正確な出荷数は不明だが、日本に比べれば圧倒的に市場は小さく、どんなに多く見積もっても70万台程度である。つまり日本向けには約350万台が生産された計算になる。しかもPSPの販売台数は安定しており、日本では目だったタイトルがあまり発売されなかった2005年5〜8月でもPSP本体の販売台数が2万台を割ることはなく(ファミ通調べの推定販売台数)、DSがヒット作を連発する中でもPSPの本体売上は常に安定していた。
この数字だけを見ると、少なくとも日本ではDSがPSPに対して圧勝しているとは言いがたくなってしまう。そう、「本体の出荷台数」で比較すると携帯ゲーム機の王者はまだ決められる段階ではないのである。しかし、これがソフトの売上データで比較すると、実売50万本以上のタイトル数は2006年1月末現在でDSの10本に対して、PSPは0本。歴然とした差がある。つまり携帯ゲーム機の「ゲーム」部門はDSが圧勝したといっていい。
ニンテンドーDSとPSPのソフト売上TOP5(2005年12月25日まで、ファミ通調べ)
ニンテンドーDS ソフト名
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発売日
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推定販売本数
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おいでよ どうぶつの森
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2005/11/23
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116万9757本
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脳を鍛える大人のDSトレーニング
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2005/05/19
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101万1341本
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nintendogs(ニンテンドッグス)
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2005/04/21
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96万5665本
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やわらかあたま塾
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2005/06/30
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87万5371本
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さわるメイドインワリオ
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2004/12/02
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85万5565本
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PSP ソフト名
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発売日
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推定販売本数
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みんなのGOLFポータブル
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2004/12/12
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39万9161本
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真・三國無双
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2004/12/16
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28万6187本
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リッジレーサーズ
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2004/12/12
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27万3521本
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モンスターハンターポータブル
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2005/12/01
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23万3783本
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ウイニングイレブン9ユビキタスエヴォリューション
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2005/09/15
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20万2176本
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ではなぜ、PSPは「本体が売れてソフトが売れないのか」ということになるが、「ソフトが売れない」のは簡単な話、「魅力的なソフトが少ない」の一言で片付けられてしまう。ニンテンドーDSのソフトがDSの機能(タッチペンやマイク音声入力など)を活用して「DSでしかできないゲーム」を豊富に供給しているのに対して、PSPは上表の売上TOP5を見ても分かるようにほとんどがPS2タイトルの移植タイトル。もちろん単なる移植ではないが、それでも据え置き機の大きな画面で楽しんでいたものを無理やりにでも携帯ゲーム機に持ってきたという方向性のゲームが多い。それはそれで少なからず需要はあるようだが、それらのゲームだけでは満足な売上につながらないというのが現状のようだ。
次にようやく本題である「本体がなぜ売れるのか」であるが、ソフトがあまり売れていない市場であることを考慮すれば「ゲーム以外の要素に魅力がある」という答えにたどり着く。PSPはゲームを楽しむという用途以外にも、音楽・動画の再生、ブラウザ機能によるインターネット閲覧なども可能である。そして、ポータブルプレイヤーとしてみた場合、大きな画面を持ちながらこれだけ多機能で価格が2万円(PSPの定価は発売から2006年1月現在、2万0790円)というものは他にほとんど見当たらない。こうした要素がゲームをあまりやらない人の心を捉え、結果として本体のみが売れているというのならば一応筋の通った話になる。
しかし、それだけで本体がこれだけ売れるのだろうか。ほかの需要はないのだろうか。実はPSPは多機能であるがゆえの弊害もある。それは「大っぴらにはできない機能」であり、具体的には「アダルト」と「エミュレータ」が挙げられる。
まずアダルトは、すでにアダルトUMD(UMDはPSPでソフトを動かすためのメディア)が一般に発売されていて、そういった映像等が楽しめるほか、パソコンなどに入っているそういったデータもPSPで再生することができる。「いつでもどこでも楽しめる」が売りのPSPにおいて、そういった映像がいつでもどこでも楽しめるというのは一部の人には魅力的なコンテンツとなりうる可能性はある。次にエミュレータは、分からない人のためにPSPに限定してごく簡単に言えば「PSPでPSP以外のゲームを動かす」ものであるが、エミュレータというもの自体は違法ではないものの、そこで使われるゲームは明らかに著作権法などに抵触しており、違法である。この行為に対してSCEとしては本体のバージョンアップなどでそれらの機能を使えないように対応しているが、逆にわざとバージョンダウンしてエミュレータを使用する例もあり、下火になる気配は今のところない。PSPの発売当時のキャッチコピー「すべてのゲーム!を、持ちあるこう。」がこうして実現されているのはなんとも皮肉な話である。
もちろんこのような「大っぴらにはできない機能」がPSP本体の売上の大半に貢献しているなどと言うつもりはないが、PSPがいろんな意味で「ただのゲーム機ではない」ということは確実にいえそうである。実際ほかにもネット上などでは「PSP本体の売上は水増しされている」という意見があり、その理由について「PSPにはなぜか『生産出荷台数』という言葉が使われ、一般的に言う出荷台数が不明だ」としている。出荷台数とは一般的にはメーカーが出荷して市場に出回っている数だが、生産出荷台数は生産された時点で数に含まれ、これから出荷する分まで含まれている。つまり、生産だけ大量に行なってその数を発表している可能性があるからおかしい、というものだ。実際、どういう意図があるのかは不明だが、SCEの発表ではPSPだけではなくPS2などにも生産出荷台数という言葉が使われている。それが本体の売上の水増しに繋がっているという考えは乱暴であるが、少なくとも他社の発表する出荷台数との単純な比較で優劣を判断するのは早計だということはいえるのではないだろうか。
PSPは発売前から「ただのゲーム機ではない」というイメージだったが、発売から1年経って、言葉はそのままでその意味が変わってしまった節がある。PSPをゲーム機として発売している以上は、もっとゲームで楽しませて欲しいものである。PSPを、ゲーム以外の用途で購入したユーザーをも振り向かせるような魅力的なゲームの登場に期待したい。
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