廉価版ゲームの功罪
テレビゲームのソフトの中に「廉価版」と呼ばれるゲームがある。廉価版のゲームというのは画一的な定義はないが、一般的には「一度オリジナル版として発売されたものが再び価格を改定してリリースされる」もので、「中身はオリジナルと変わらないもの(つまり、追加要素やグラフィックスの変更などはないもの。変更があるものは一般的には「リメイク」と呼ばれる)」である。こういったゲームはメディア自体の値段が高かったROMカセット時代にはほとんど発売されなかったが、メディアの安いCD-ROMマシンが登場してから本格的に発売されるようになり、現在でもかなりの数の廉価版ゲームが発売されている。
廉価版ゲームというものを最初に一般に広めたのは間違いなく「PlayStation the Best」シリーズである。1996年7月12日に第一弾タイトルとして『リッジレーサー』や『アークザラッド』など7タイトルを2800円(税別)で発売。当時のゲームの価格は5800円(税別)程度のものが多く、当時としてはその試み自体にかなりのインパクトがあった。その動きはほかのハードにも波及し、様々なメーカーが様々な形で廉価版ゲームを発売するようになった。
ではさっそくこの廉価版ゲームの功罪(いいところと悪いところ)であるが、まず功罪の功(メリット)の部分はなんといっても「価格が安いこと」である。先の例にもあるが、一度発売されたゲームが、多少パッケージなどに変更はあるものの、まさしく新品で半額もしくはそれ以下の価格となって再発売されるのである。これはオリジナル版を買おうか迷っていた人の背中を押すのには十分であるだけでなく、新たにハードを購入した新規ユーザーが手を出すのにもまさに打ってつけである。
また、ユーザー側からだけでなく、発売するメーカーにも廉価版ゲームにはメリットがある。それは単純に再発売することでユーザーの目をもう一度そのゲームに注目させるということだけでなく、なんといっても廉価版ゲームの発売に当たっては開発費が必要ない。もちろんオリジナル版と比べて利益は低くなるものの、メーカーにとってはまさにお金をかけずに利益を生むという理想的な商品、それが廉価版ゲームなのである。
この一見するといいことづくめの廉価版ゲーム、少なくともユーザーの側からしてみればあからさまなデメリット、つまり功罪の罪の部分は特にないように思える。しかし「PlayStation the Best」の登場からおよそ10年、時間が経ってから見えてきた罪の部分は確かに存在する。
まずはユーザーの「価格に対する慣れ」というものが挙げられる。2800円という価格は確かに魅力的ではあるが、例えば1998年10月22日に第一弾が発売された「SIMPLEシリーズ」に代表されるように1500円や2000円で楽しめるゲームが登場したり、廉価版になる前に中古の値段がそれより下がってしまい、価格に対するインパクトが徐々に薄れていってしまうことになる。それに対抗して例えばプレイステーションでは「PSone Books」という、いわゆる「廉価版の廉価版」シリーズを1800円(税別)で発売するものの、さすがに初期のころのインパクトはなく、売上もそこそこにとどまった。
しかしメーカーとしてはそこそこでも売れれば儲けものなわけで、需要がほとんど無さそうなタイトルまで廉価版タイトルとして再発売されるケースが近年は目立つようになってきた。そして、少しでも廉価版ゲームをたくさん売りたいと考える各ゲームメーカーは、徐々にオリジナル版から廉価版への発売間隔を短くしていくことになる。それもユーザーが「こんなに早くていいの?」と思えるほどに。
多少蛇足になるが2006年2月現在、オリジナル版から廉価版への発売間隔がもっとも短いゲームはPS2『サルゲッチュ3』(SCE)である。このゲーム、2005年7月14日にオリジナル版が6090円で発売され、同じ年の11月2日に廉価版が2800円で発売されている。その間、4ヶ月弱、110日である。しかも狙ってのことかどうかは不明だが、廉価版の発売の際にメーカーから「歴代最速ベスト(廉価版)化達成」というキャッチコピーまで打たれている(そのキャッチコピーの雑誌掲載画像はこちら)。夏に発売されたゲームが、秋にはもう廉価版。夏にオリジナル版を買ったユーザーは、どう思ったのだろうか。
上記の例は極端であるが、ほかのゲームでもだいたい1年程度で廉価版となるケースが最近では多い。しかしこの流れがもたらすものというのは「廉価版ゲームの売上を上昇させる」ということよりも「オリジナル版の売上を低下させる」ということへの影響が大きいような気がしてならない。つまり、ユーザー側からしてみればオリジナル版が発売されても「どうせしばらくしたら廉価版が出るのだからそれまで待てばいいや」ということになり、廉価版ゲームの発売は、メーカーにとって利益を生むものであったはずが、逆に利益の出ない、発売自体が無意味なものになってしまってはいないだろうか。
この廉価版ゲームの登場によるオリジナル版の売上低下が続けば、オリジナル版の価格が上昇したり、作品自体の出来が粗悪になるなど、結果的にシリーズ物のブランド崩壊を招いてしまうことになる。これは最終的にはユーザーにとってもデメリットであるということになる。
さらに、廉価版ゲームというのは、その価格で発売された時点で「このゲームはこの価格の価値しかありません」と認めているようなもので、1年程度でその価値になってしまうのであれば最初からもっと安くはできないのか、というユーザーの声も少なくない。実際、メーカーにとってみればその辺は言い分がありそうだが、現状のオリジナル版と廉価版との価格の差異を見ていると、確かにオリジナル版を含めた「ゲームの適正価格」というのは改めて考え直したほうがいいのかもしれない。
廉価版ゲームは2006年になってもタイトル数が減る気配もなく、続々と発売されている。「ゲームを安売りするのはクリエーターに失礼」とこれまで廉価版に対して否定的な態度をとっていた任天堂も2006年2月2日にゲームボーイアドバンスの廉価版「バリューセレクション」15タイトルを発売したが、発売週の売上TOP30には1本もランクインしていない。売れていないから「発売を取りやめるべき」などというつもりはないが、少なくとも「オリジナルの発売から結構時間が経ったから、そろそろ出すか」や「発売ゲーム数が減ってきたから廉価版ゲームでお茶を濁そう」的な廉価版発売はやめて、例えば続編のゲームが出る直前に前作をまだプレイしていないユーザー向けに廉価版を発売する、などの効果的な発売方法を検討してもらいたいものである。
これから発売される次世代機では開発費の高騰などの理由からソフトの価格が上がると予想されている。よって今後、廉価版ゲームの需要もますます高まると予想される。そんな時代を迎えるに当たって、廉価版ゲームの市場は本当にこのままでよいのか。各メーカーからの、もう少し戦略的な廉価版ゲームに対する動きがあることを期待したい。
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